「デクせろ」「デクセロ」と検索してこの記事にたどり着いた方——正しくは「Bexsero(Bexsero)」です。発音しにくい名前ですが、留学前に知っておくべき大切なワクチンなので、ぜひ最後まで読んでください。
髄膜炎菌感染症は、発症から24時間以内に死亡することもある、進行の非常に速い感染症です。生存した場合も、手足の切断や難聴などの重篤な後遺症が残るケースがあります。欧米の大学では、特に寮生活を送る学生の間で発症リスクが高まることが知られており、入寮の条件として髄膜炎菌ワクチンの接種証明書を求める大学が増えています。
「どのワクチンを打てばいいの?」「Bexseroって普通のワクチンと何が違うの?」——この記事では、予防内科医の立場から、その疑問に丁寧にお答えします。
結論!Bexseroと国内承認ワクチンの最大の違い
ひとことで言うと、「防げる菌の種類(血清群)」と「日本国内での承認状況」がまったく異なります。
国内で承認されている髄膜炎菌ワクチン(メンクアッドフィなど)は、A・C・W・Y群という4つの血清群をカバーしています。一方、BexseroはB群という、国内承認ワクチンではカバーできない血清群に特化したワクチンです。
つまり、どちらか一方を打てばOKというわけではなく、渡航先の状況によっては両方の接種が必要になるケースも多いのです。
【比較表】国内ワクチン(メンクアッドフィ)とBexseroの違い
| 比較項目 | 国内承認ワクチン(メンクアッドフィ等) | Bexsero(Bexsero) |
|---|---|---|
| 対応する血清群 | A・C・W・Y群(4群) | B群のみ |
| 日本国内の承認 | 承認済み | 未承認(輸入ワクチン) |
| ワクチンの種類 | 結合型ワクチン | 組換えタンパクワクチン |
| 標準接種回数 | 通常1回 | 通常2回(1〜6ヶ月間隔) |
| 接種できる場所 | 一般の医療機関 | トラベルクリニック等(自費) |
| 国の副反応救済制度 | 対象 | 対象外 |
3つの大きな違いをさらに詳しく
1. ターゲットにしている「菌の種類(血清群)」が違う
髄膜炎菌にはいくつかの「型(血清群)」があり、地域によって流行する型が異なります。
日本国内で承認されているメンクアッドフィは、A・C・W・Y群という4つの血清群をカバーする「4価ワクチン」です。サブサハラアフリカや中東(メッカ巡礼)での流行はこれらの型が多く、多くの留学先大学が求める接種証明書もこのワクチンで対応できます。
しかし、欧米・オーストラリアでは「B群」が髄膜炎菌感染症の主な原因となっています。イギリスやフランス、アメリカのキャンパスで発生するアウトブレイクの多くはB群によるものです。日本国内でもB群の発生は一定数報告されており、決して他人事ではありません。
メンクアッドフィはB群には効果がなく、B群をカバーするにはBexseroが必要です。
2. 日本での「承認状況」が違う
BexseroはGlaxoSmithKline(GSK)が開発したワクチンで、世界40カ国以上で承認されています。有効性・安全性は国際的に確立されており、欧米の公衆衛生機関でも広く推奨されています。
ただし、日本では薬事承認を受けていない未承認ワクチンです。そのため、一般のクリニックでは取り扱いがなく、輸入ワクチンを扱うトラベルクリニックや渡航外来で自由診療(全額自費)として接種することになります。
未承認ワクチンは国の副反応救済制度(予防接種健康被害救済制度)の対象外となります。接種前に医師から十分な説明を受けた上で、ご判断ください。
3. ワクチンの「作り方(製法)」が違う
なぜBexseroだけB群に対応できるのか——そこには、ワクチン開発の技術的な背景があります。
A・C・W・Y群のワクチンは「結合型ワクチン」という従来の技術で作られています。しかしB群の髄膜炎菌は、その表面の構造が人体の組織と似ているため、同じ技術では効果的なワクチンを作ることができませんでした。
そこで開発されたのが「組換えタンパクワクチン」です。遺伝子組換え技術を用いてB群に特有のタンパク質を人工的に作り出し、それを抗原として使用することで、安全かつ効果的な免疫反応を引き出すことに成功しました。Bexseroはこの最新技術によって初めて実用化されたB群髄膜炎菌ワクチンです。
どのような人にBexseroの接種がおすすめ?
以下に当てはまる方には、Bexseroの接種を強くお勧めします。
- 欧米・オーストラリアへ留学する方(特に大学の寮や学生寮に入居する予定の方)
- 長期間、集団生活を送る環境に入る方(寮・シェアハウス・研修施設など)
- 渡航先でB群髄膜炎菌が流行しているエリアに行く方
- 免疫が低下しやすい基礎疾患をお持ちの方で渡航を予定している方
特に留学生の場合、大学側からメンクアッドフィ(A・C・W・Y群)とBexsero(B群)の両方の接種証明書を求められることがあります。どちらか一方だけでは要件を満たせない場合もあるため、渡航先の大学の要件を事前に確認した上で接種計画を立てることが重要です。
Bexseroは通常2回の接種が必要で、1回目と2回目の間に1〜6ヶ月の間隔が必要です。渡航の少なくとも2〜3ヶ月前には接種を開始することをお勧めします。
まとめ|渡航前のワクチン計画は早めに、専門医と一緒に
- BexseroはB群髄膜炎菌専用の輸入ワクチン。国内承認ワクチン(メンクアッドフィ等)とは防げる菌の種類がまったく異なる。
- 欧米・オーストラリアへの留学では、B群対策としてBexseroが必要になるケースが多い。
- Bexseroは日本未承認のため、トラベルクリニックでの自費接種が必要。国の救済制度対象外であることも要確認。
- 2回接種が必要なため、渡航の2〜3ヶ月以上前から計画を立てることが大切。
- メンクアッドフィとBexseroは両方接種することで幅広い血清群をカバーできる。
髄膜炎菌感染症は予防できる病気です。しかし、どのワクチンを選ぶべきかは渡航先の流行状況や大学の要件によって異なり、個別の判断が必要です。「何を打てばいいかわからない」という段階からご相談いただけますので、お気軽にどうぞ。
この記事の監修者:Dr. Kurenai(RED MAPLE CLINIC 院長)
臨床医として眼科・麻酔科・耳鼻科の研修を積み、弘前大学大学院で医学博士(PhD)を取得。青森県内の複数の保健所長を歴任し、感染症危機管理・地域医療政策の最前線に立つ。労働衛生コンサルタントとして海外渡航外来にも従事。グロービス経営大学院にてMBAを取得。2026年7月21日、横浜・馬車道にRED MAPLE CLINICを開院。